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2008年09月 アーカイブ

2008年09月16日

名古屋剛志の海外レポート -イタリア編-

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アートの日常化される風景
六月の中旬から七月半ばまでイタリアを研修を終え帰国した。
私の予想ではイタリアの古典的作品に感激し帰国するはずだった。
確かに多くの感動もした。けれど、それはあくまで予想に過ぎなかった。
ここからイタリアにおけるアートに関する日常化につい伝えたいと思う。
私が滞在したのはイタリア、フィレンツェ。屋根のない美術館とも言われる限りなくルネサンスの影響の生き残った街。それはある意味では時間を止めてしまった街のよう。至るところに芸術的な彫刻が立ち並び、マンションでさえ当時の赴きをのこしたまま。しかし、そのままでは話は終わってしまう。現在イタリアにある美術の在り方とはどんなものであろう。それを紐解いてみたい。
滞在中、トスカーナ州ポンテ・デラにいる知り合いを尋ねた。その時に案内された彫刻作家の個展イベントが未だ衝撃として刻まれている。
その展示に圧倒されたのは何故か…。

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その作家, JAVIER MARIN(※1)の彫刻作品の磨き抜かれた力量と展示スケールに圧巻されたのも当然ながら、街全体が一丸となり展示に協力し理解があったこと。展示スペースは街の広場、銀行の前、極め付けは展示のメインスペース、教会。
この教会という神聖な場所がアーティストに対し発表の場を与えているのだ。それは日本ではそうはあり得ないアート信仰と言えるかもしれない。その教会内部では祭壇から礼拝スペースまで照明が落とされた中のスポットライトにより浮かび上がり、より躍動的に映し出される。更には神聖さを帯びながらも、その場には対照的に攻撃的なBGMが鳴り響くといったインスタレーションが繰り広げられる。もはや一つのショーを観覧するようなエンターテイメント性には驚きを隠せなかった。

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アートと共に生きる
アートが暮らしにおける精神的安定を支えている。この国ではそれが当然のカタチとして存在している。あるいくつかのお宅を拝見させてもらった。部屋の壁には至る場所に絵画作品が装飾される。彼等は生活の一部として捉え、生きることを楽しんでいるのである。それはリストランテ(※2)からトラットリア(※3)の壁面に絵画が並び壁画が描かれることも同様である。これは日本におけるミュージックシーン同等のレベルにあるのではないだろうか。当然、日本にそれが全くないワケどはない。ただ、彼等のそれを重要視する度合いはサイズや数にしても比ならないように思う。

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イタリアには世界の美術品の半数以上が存在していると言われているが、その美術に対する浸透力と理解は凄まじい。この他フィレンツェのパラッツォ、ベッキオで見た取り扱い画廊との併設展示にも驚いたが、アルノ川に架かる橋の上で趣味の画を石ころに描いて売りに来ている老人には、プロフェッショナルよりもアートの温もりや貴重さを教えられた気がする。イタリア語もろくに分からない私に熱心に何かを語る姿が今でも記憶に新しい。

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「僕は絵描きなんだ」と言ってファイルを見せるとこれはキレイだとかとても良いとか社交辞令もあるのかもしれないが興味を示し、ページをめくってくれた。また自分も彼の楽しく作品を描く様に対して、「これ、いくら?」と彼に言葉を発してしまった。その自然なやりとりの根源には、アートが身近に存在し、アートに対する関心がこの街には溢れているからではないだろうか。

帰国後

今思うことは、イタリアのような有り触れたアートの在り方をこれからの日本にも期待したい。ここ数年、デザイン業界の活性化により美術自体の浸透は以前よりは見られるものの、まだ所謂アートとされる分野の理解や共感は浅い。この体験を機に更なるアートに対する浸透を自分なりのスタンスから導き出していきたいと思う。

※1 JAVIER MARIN(ハヴェエール マリーン) メキシコ人彫刻家
※2 リストランテ レストランのこと
※3 トラットリア イタリアの気軽に入れる大衆料理店のこと

nagoya_italy6.jpg 名古屋剛志

アーティスト


緻密な描写と多彩な表現手法を持ち味に、時に和の精神性を、時に西洋の世界観を、型にはまらない縦横無尽なスタンスで創作に取り組んでいる。
C-DEPOTの創設メンバーのひとり。


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