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エッセイ アーカイブ

2007年9月 5日

いつかの夢よりも現実はもっと素晴らしい

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ゆったりとたゆたうようなグルーブに乗っかって、この言葉は耳に響いてきます。このところずっと聴いているQuinka,with a Yawnの久し振りのCD 「micro」の9曲目にに収録されている「tokotoko」のサビで、青木美智子さんの甘い声とそれに寄り添う小貫早智子さんのコーラスとで届けられるこのライン。耳にするたびに「あぁ、そうだようなぁ」と思うのです。


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常に読みかけの本が傍らにあるようにしています。
読む本はかなり節操がなくて、一応は好きな作家もいるのですが、そのとき読んでいる本を読み終えてしまいそうになると、本屋さんで次に読む本を物色したりして、迷いに迷った挙げ句に結局その本屋さんでずいぶん前から平積みにされていて気になってしまっている文庫本を手に取ってしまったり。
で、最近読んで目に付いてた鱗が落ち尽くしちゃった本が、結構話題になったはずの 池谷裕二さんと糸井重里さんの対談を纏めた 「海馬」。
アート(だけではないけれども)がなぜ必要なのか、なんて殊勝なことをたまに考えたりもするわけですが、そのことにこの本の第二章「海馬は増える」の「脳は毎日が面白いかどうかに反応」の辺りが答えてくれていたんです。少なくとも、僕にとっては充分な答えになっていました。


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こういうところでこんなことを書いてしまうのもどうかと思うのですが、少し前、左手の手のひらのなかの骨を骨折してしまいました。
今の時点ではどの程度骨がくっついているのか分からないのですが、負傷して1週間後に撮ったレントゲン写真では順調に治癒の方向に進んでいる模様。
左手が使えなくなるとこういうふうに不便なんだ、という発見はそれはそれで新鮮で、その不便を克服していくのも案外楽しかったりしています。


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僕にとって「いつかの夢」ってどんなのだったろう、と考えると、結局それは自分「ひとり」で見ていた夢だったのかな、と。
そして「素晴らしい現実」は、アートの面白さに気付いて、美術館巡りからギャラリーへと鑑賞エリアをシフトしていった頃からたくさんの人々と出会い、たくさんの人とのつながりができて、ぱっと振り返るといつの間にかホントにたくさんの人に囲まれていることを実感できていることなのかな、と。
いろいろと紆余曲折を経て今のブログ 「ex-chamber museum」を始めてから1年ちょっと。その間にレビューした展覧会の数はおそらく500程度はあって、そこにはそれだけのアーティストがいて、ギャラリストやスタッフ、その他にもさまざまな人がいます。そういった方々とのかかわり合いが充実感をもたらしてくれることに、心から感謝しています。


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この「海馬」のこの部分を読んでいてすご面白かったのが、刺激が多いほうが脳は発達する、ということを理論的、感覚的の両面から納得できるような説明がなされていたところなんです。
いろんな例えや理論を交えながらの池谷さんの説明と、それを僕らの目の高さに置き換えて、イメージしやすい言葉で表現する糸井さんの感嘆とが絡み合って、楽しく説明してくいれています。
そしてその「刺激」をそのまま勝手にアートに置き換えてみて、自分で膝を叩いてしまったわけでして。
さまざまな作品から得るイメージが、他のさまざまな要素記憶であったり、いっしょに並ぶ作品との空間的な関係だったり、その時の感情であったり、そういったものと脳内で複雑に絡み合うことでイマジネーションが活性化するんだろうな、と。
それは確実に心を豊かにするし、豊かになった心が社会を豊かにするのは疑いがない(と言っていいですよね。いいですよね!)ので、だからアートは必要なんだ、と。


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左手が不自由になって不便になってたことは僕にとって結構な「刺激」だったわけです。
左手の握力がほぼゼロの状態で、だったら左の手や腕のどの部分を使えば能率よく物を持てるか、とか、痛くない角度はどうか、とか。ひとつひとつを無理がない範囲で試しながら克服していくうちに手の具合も良くなってきて。
ずいぶんとポジティブシンキングだな、と自分に若干呆れ気味だったりしますが、まあ、現状をネガティブに捉えて前に進まないでいいような性分ではなく、この程度の怪我で時間を無駄にしちゃうのがもったいなくて。


ちなみに今じゃうっかり「あ、今左手にすごく負荷がかかってる(汗)」といった具合に重たいものを持っちゃったりしてますが、案外大丈夫っぽいです。
怪我して病院で包帯巻いてもらって帰宅してその包帯を取ったときの状況から考えると、人体の仕組みってスゴイと唸らざるを得ないのです。


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この「micro」、他にも素敵な曲が並んでいます。
さわやかなアコギのイントロから導かれるポジティブな1曲目「BLUE FLOWERS」、切ない気持ちが淡々としたリズムの上で紡がれていく「ハルニレ」、女性版キセルといった趣の和み系ナンバー「つぶ」などなど。
思わず口ずさみたくなるやさしいメロディがずらりと揃った1枚です。
そしてもうひとつ、演奏も素晴らしいんです。特にドラムがすごい!


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・・・とまあ、今回こちらへの記事の依頼をいただきまして、お題はなんでもOK、ということで、こんな感じで仕立ててみましたが、いかがでしょうか。
慣れないことをやってるなぁこの人、と大目に見ていただければ幸いです。

makuuchi_5.gif 幕内政治・文 ex-chamber museum主宰。 ギャラリーベースのアートの展覧会のレビューが中心の個人のブログとしては、質はともかく量は世界一かも、と思ってシャレでギネスブックに申請してみようとネットで調べるも、なんだかめんどくさそうだったので一瞬で挫折した。 しかし、それにもめげず、1日1件以上の記事を掲載し続ける日々を送る。
makuuchi_6.gif 寺嶋悟・イラスト グラフィックデザイナー 1979年生まれ。福井県出身。大坂デザイナー専門学校グラフィックデザイン科卒業。2001年に共同工房「アトリエ城山」のメンバーに加入(〜2004)。2006年3月よりクリエイティブチーム「ebc」に参加。

2009年9月 7日

末宗美香子、ビオトープと出会う

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一度は田植えをしてみたい!
そう思っていた所、仕事でお世話になったライターのY氏より田植え体験のお誘いを受け、ゴールデンウイークに千葉県鴨川市にある「星ヶ畑棚田」で行われた田植えに友人と参加しました。
現地までは久里浜フェリー(朝1番のフェリー乗船者はほとんどがゴルフバッグを持った方々です。。。)、内房線など乗り継いで4時間近い道のり。集合場所は棚田を見下ろすお寺の境内。大人から子供まで、100人以上が集まりました。多くは東京などの都会在住者のようです。1年間に渡りいくつかのグループがここの棚田を借りて田植えから収穫までを体験できます。

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午前9時から地元のお米農家のベテランさん達によるレクチャーが始まり、各々が指定された棚田へ向かいます。足には田植え足袋という見た事のない?不思議な履物を付け。。。(もちろん裸足でもOKなのですが)
不定形の田んぼが段々にいくつも広がり、大きな田んぼからかなり小さい田んぼまで、皆でわいわいとスタートします。

まずは泥の中にそろそろと足を。。「ひゃあ。。生温い~。でもなんとも気持ち良い~~!!」初めて見る稲の繊細さに驚き、思いがけない泥の感触の良さ、水の中に蠢くオタマジャクシ等々、、。
なんだか懐かしい気持ちに。こんなに繊細な稲がぐんぐんと成長するのかあ。。。と思うとなんとも逞しく、ありがたく感じます。
一つの田んぼに規模に合わせて6人~10人くらいが横並びになり、稲を植える目印の糸を移動させながら皆ですこしづつ進んで行きます。田んぼの土手を壊さないようにとレクチャーで指導されたにもかかわらず、おぼつかない動きのため見事に破壊。。。注意されながら土手を直したり、
デジカメを落としそうになりながらもわいわいと作業は進みます。もうちょっとやりたいなあ。。。と思った頃に全ての田植えが終了。
あぜ道を子供達が走り回る様子は「日本昔話」(TBSのアニメ)の世界。。。大人も泥にまみれて皆さん楽しそう。作業終了後は素晴らしい景色の中、お弁当や農家の方からの差し入れの夏みかんを戴きました。この稲が炎天下をぐんぐんと成長していく姿を想像しながら。。。

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帰りに立ち寄った鴨川の道の駅で、今回の棚田のさらに奥にある大山千枚田という有名な棚田で獲れたお米を購入。このお米が大変美味でした!普通に炊飯器で炊いたのですがまったく別物?というしっかりとした炊きあがりにただただ驚きでした。

田んぼは遥か昔の人々が地形や気候を活かして考えだした人口自然がこの時代にも受け継がれていることの凄さ。完成度の高い一つの形態=稲作、を作り上げるまでの過程には、お米と同じく粘り強い人間の意志を感じます。しかも実用という目的でありながら、棚田や田んぼの四季折々の姿はとても美しくもあります。
今度訪れるのは収穫の頃。しかも収穫祭では猪鍋?バーベキュー?とか。実に待ちどおしい。。。(2009/5/3)


*棚田について
全国の散在する棚田は、その生産効率の悪さから消滅の危機を迎えています。
ですが、棚田は食料生産としての場だけではなく、その下方にある自然体系の保全など様々な役割をしているビオトープでもあります。
今回の「田植え体験」は農業の現場に趣くことで、これからの日本の未来を考えるきっかけになればと考え、株式会社クロス、有限会社ユニットクワトロが棚田を借りることによって実現しました。


biotop_4.jpg末宗美香子

アーティスト


独特の感性と色彩で、キッチュでポップな「異空間の住人」を描くアーティスト。
「ファッション」と「デザイン」を感じさせる、センスの高さに定評があり、その可能性はアートの枠に留まらない。


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