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海外レポート アーカイブ

2007年04月01日

美術教育って他の国はどうなの?(トルコ編)

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現在日本の学校教育では図工の時間が削減され、子供の美術離れも心配されています。世界の芸術に関する教育は今どうなっているのかを紹介し、また日本と比べることでその状況の輪郭を浮き上がらせようと思います。
今回は、トルコ人で作曲家・アーティストのシナン=ボケソイに近代化の発展が著しいトルコの現状を聞いてみました。彼はイスタンブールとパリを拠点にして作家活動やコマーシャル音楽などの制作を精力的にこなしています。


1. まずはじめに、トルコの現在のアートシーンを紹介してもらえますか?
これは詳細なレポートを必要とするかもしれない難しい質問ですね。コンテンポラリーアートは最近ギャラリーや展覧会などでみられるようになりました。個人的な見方をすれば、ファインアートや造形作品など観客に対してよい提示をできる機会を持っていると思います。作曲家にとってはそれはとてもうらやましいことなんです。
そして特に20世紀における音楽は他の美術教育に比べて、とても支援が少なかったといえます。コンサートが催されることは少なく、またその中できちんとしたものは更に少なかったんです。


2. 学校で図工や美術の時間はどういったことを学びましたか?
以前、高校や大学で音楽や体育は必修科目でしたが、図工はその学校次第でほぼ選択科目になっていました。音楽の授業では合唱したり、様々な曲を聴いたりというような基本的なことを学びました。また国家の斉唱をすることもとても一般的なプログラムです。それから楽器の演奏ができる生徒は時々コンサートホールで小さなコンサートをする機会をもらいました。私もたくさん演奏したことをよく憶えていますよ。


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3. あなたはピアノを上手に弾くけれども、トルコの人たちは楽器などを習う機会は多いのですか?
これは小さいときの家族からのサポートによります。両親からの支援によって子供たちはクラシックの勉強などをすることができます。その一方で、いま楽器をなじみ深いものとするために各年代の若者をターゲットとしたワークショップもあります。そして才能ある人はコンセルバトワール(芸術大学)でそれらの勉強を続けることができます。


4. 日本では美術館やギャラリーは多いにも関わらず、有名なアーティストの展覧会などを除いてあまり人は足を運びません。子供においてはなおさらです。トルコではそういった状況を見受けることはありますか?
こっちではもっとひどいんですよ!


5. 最後になりますが、学校での美術の授業とはどういった役割をすると考えていますか?
教育において、基本的な科目は若い学生に対して確かな成長をするまで受けさせられます。もちろん、それは芸術を科学、歴史、国語や体育から切り離すことはできません。芸術は全ての人にそして、健全な人格形成において必要でしょう。それは学校だけにおいてではなく、家族が子供たちに日々の生活の中で芸術に触れさせてあげ、また支援をしてあげるべきだと思います。

trk_3.jpg シナン=ボケソイ Sinan Bokesoy

作曲家、サウンドプログラマ


幼少期からピアノと作曲を学ぶ。1997年にイスタンブール工科大学を卒業し、パリ第三大学にて博士号取得。CCMIX(クセナキス作曲研究所)においてSTOCHOSというアルゴリズム作曲環境ソフトウェアを開発し、各方面より賞賛を得る。他、サウンドとビジュアルによるアートプロジェクトや、オペラの制作にも現在取り組んでいる。

2007年06月08日

安岡亜蘭の海外レポート -韓国編-

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2007年4月25日〜5月8日まで、ソウルで開催された、光化門国際アートフェスティバルに出品するため、展覧会前日から2泊3日で韓国に滞在してきました。
この展覧会はギャラリーガイドという韓国の美術雑誌の出版社が主催で、今年で3年目になります。2年前の第1回目の時も出品させていただきました。画廊として出品している団体もありますが、作家自身で出品される方が多かったように思います。
会場は、明洞地区の世宗文化会館美術館でした。泊まったホテルは会場から徒歩で30分程のところ。周辺は大きな銀行があったり、高層ビル、百貨店など、東京とそう変わらない景色でした。
韓国のタクシー料金は安いので、利用しても良かったのですが、一人だったというのもあり、なるべくことばのトラブルを避けたくて、普段と比べるとだいぶ歩きまわったと思います。着いた日の翌日の展覧会初日は午前中に搬入作業だったので、会場近くのホテルに滞在していた日本人作家の方と待ち合わせをして、会場へ。

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会場へ着くと、参加を勧めてくれた韓国人作家の蒋(チャン)さんが笑顔で出迎えてくれました。蒋さんは今年の春まで東京芸大の工芸科に留学していた彫金作家です。蒋さんの旦那様の宋(ソン)さんも画家で芸大の研究員として日本に滞在されていたことがあるそうです。日本語もとても上手で、ほんとに勉強熱心なご夫妻です。今回の展覧会にも、お二人とも出品されていました。
年々出品希望者が多くなっているらしく、一人当たりの展示面積は限られていたのですが、様々な作品が飾られていました。韓国の作家の作品が大半を占めますが、海外からの出品は、アメリカ、カナダ、中国、ポーランド、シリア、などなど…。

一通り展示作業を終え、出品していた日本人作家の方とともに、ご夫妻にお昼をごちそうになりました。正直、辛いものがあまり得意で無い私は、韓国での食事はいつもドキドキなのですが、会場近くのチヂミ屋さんへ連れて行ってもらいました。ホッ。
日本ではニラのチヂミとかが多いように思うんですが、出されたのは魚介が沢山で、牡蠣まで入ってました。海鮮好きだし、辛くないし、ほんとに美味しかったです。

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食事の後、画廊街に連れて行ってもらいました。ソウルで画廊、ギャラリーといえば仁寺洞(インサドン)という地区が有名らしいです。会場から徒歩10分位でした。
メインの大きな通りは韓国の工芸品などのお土産屋さんが大半を占め、脇の小道を入るとお茶屋さんや画廊があるという、日本では似たような所が思い浮かばない無いような独特な場所でした。強いて言うなら浅草の仲見世と銀座が混ざったような???

実は前日も蒋さんの勧めで、少しこの当たりを歩いてみたんですが、人の多さとお土産屋さんの数に圧倒され、脇に入ったギャラリーは見つけられませんでした。私の感想ではちょっと外れた場所の方が雰囲気がいい展示が多かったような気がします。
画廊では無く、美術館でしたが、savina museum of contemporary art というところは特に楽しめました。私が行った時に開催されていた企画展は、歴史的に有名な絵画を元に色々な作家が作品をつくる、といったもので、現代的な作品が多かったです。色見本に使うカラーチップを貼って、ウォーホールのマリリンモンローを作っている平面作品が印象的でした。

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夕方ごろ会場へ戻り、他の作家の作品を見たり、第1回目の展示で知り合った、韓国の作家さんとのうれしい再会があったり。オープニングでは「私もいいの!?」と思いつつもテープカットをしたりしました。
主催者をはじめ、権威ある方々の挨拶が続いたようでしたが、語学力が無いため内容は理解出来ませんでした。すみません。。

その後は皆さんと一緒に焼き肉へ。韓国では牛の焼き肉はお祝いなど特別な時に食べて、普段友人や家族で、という場合は豚の方が多いそうです。その日も豚の焼き肉をごちそうになりました。鉄板の隅の穴から余分な脂が流れるしくみで、以外とあっさりしていて美味しいです。にんにくやコチュジャンと一緒に野菜で巻いて食べるのが韓国流です。
それにしても韓国の方は皆さんお酒が強くて…。ついていくのに必死でした。笑
翌日はもう帰国だったので、早起きしてまた仁寺洞をぶらぶら。金魚の灯籠を衝動買いしました。出発の為ホテルへ戻ると、忙しい中、蒋さんが見送りに来てくれました。
主に作家さんや美術関係の方としか接しませんでしたが、みなさんほんとに心が温かい方が多かったです。お裾分けしてもらったあったかさと、蒋さんが持たせてくれた生姜茶をおみやげにホクホクして短い旅から帰ってきました。

giaf_5.jpg安岡亜蘭

アーティスト


シャープなデザインによる日本画テイストの動物画、メカニカルな要素を大胆に持ち込んだ作品を制作する。ジャンルにとらわれす様々な媒体に活動の幅を広げている。
C-DEPOTではコアメンバーとして重要な役割を担う。

2008年09月16日

名古屋剛志の海外レポート -イタリア編-

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アートの日常化される風景
六月の中旬から七月半ばまでイタリアを研修を終え帰国した。
私の予想ではイタリアの古典的作品に感激し帰国するはずだった。
確かに多くの感動もした。けれど、それはあくまで予想に過ぎなかった。
ここからイタリアにおけるアートに関する日常化につい伝えたいと思う。
私が滞在したのはイタリア、フィレンツェ。屋根のない美術館とも言われる限りなくルネサンスの影響の生き残った街。それはある意味では時間を止めてしまった街のよう。至るところに芸術的な彫刻が立ち並び、マンションでさえ当時の赴きをのこしたまま。しかし、そのままでは話は終わってしまう。現在イタリアにある美術の在り方とはどんなものであろう。それを紐解いてみたい。
滞在中、トスカーナ州ポンテ・デラにいる知り合いを尋ねた。その時に案内された彫刻作家の個展イベントが未だ衝撃として刻まれている。
その展示に圧倒されたのは何故か…。

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その作家, JAVIER MARIN(※1)の彫刻作品の磨き抜かれた力量と展示スケールに圧巻されたのも当然ながら、街全体が一丸となり展示に協力し理解があったこと。展示スペースは街の広場、銀行の前、極め付けは展示のメインスペース、教会。
この教会という神聖な場所がアーティストに対し発表の場を与えているのだ。それは日本ではそうはあり得ないアート信仰と言えるかもしれない。その教会内部では祭壇から礼拝スペースまで照明が落とされた中のスポットライトにより浮かび上がり、より躍動的に映し出される。更には神聖さを帯びながらも、その場には対照的に攻撃的なBGMが鳴り響くといったインスタレーションが繰り広げられる。もはや一つのショーを観覧するようなエンターテイメント性には驚きを隠せなかった。

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アートと共に生きる
アートが暮らしにおける精神的安定を支えている。この国ではそれが当然のカタチとして存在している。あるいくつかのお宅を拝見させてもらった。部屋の壁には至る場所に絵画作品が装飾される。彼等は生活の一部として捉え、生きることを楽しんでいるのである。それはリストランテ(※2)からトラットリア(※3)の壁面に絵画が並び壁画が描かれることも同様である。これは日本におけるミュージックシーン同等のレベルにあるのではないだろうか。当然、日本にそれが全くないワケどはない。ただ、彼等のそれを重要視する度合いはサイズや数にしても比ならないように思う。

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イタリアには世界の美術品の半数以上が存在していると言われているが、その美術に対する浸透力と理解は凄まじい。この他フィレンツェのパラッツォ、ベッキオで見た取り扱い画廊との併設展示にも驚いたが、アルノ川に架かる橋の上で趣味の画を石ころに描いて売りに来ている老人には、プロフェッショナルよりもアートの温もりや貴重さを教えられた気がする。イタリア語もろくに分からない私に熱心に何かを語る姿が今でも記憶に新しい。

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「僕は絵描きなんだ」と言ってファイルを見せるとこれはキレイだとかとても良いとか社交辞令もあるのかもしれないが興味を示し、ページをめくってくれた。また自分も彼の楽しく作品を描く様に対して、「これ、いくら?」と彼に言葉を発してしまった。その自然なやりとりの根源には、アートが身近に存在し、アートに対する関心がこの街には溢れているからではないだろうか。

帰国後

今思うことは、イタリアのような有り触れたアートの在り方をこれからの日本にも期待したい。ここ数年、デザイン業界の活性化により美術自体の浸透は以前よりは見られるものの、まだ所謂アートとされる分野の理解や共感は浅い。この体験を機に更なるアートに対する浸透を自分なりのスタンスから導き出していきたいと思う。

※1 JAVIER MARIN(ハヴェエール マリーン) メキシコ人彫刻家
※2 リストランテ レストランのこと
※3 トラットリア イタリアの気軽に入れる大衆料理店のこと

nagoya_italy6.jpg 名古屋剛志

アーティスト


緻密な描写と多彩な表現手法を持ち味に、時に和の精神性を、時に西洋の世界観を、型にはまらない縦横無尽なスタンスで創作に取り組んでいる。
C-DEPOTの創設メンバーのひとり。


2008年11月16日

安岡亜蘭の海外レポート -韓国編 2-

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7月、韓国の忠清南道泰安郡(チュンチョンナムド・テアングン)の夢山浦(モンサンポ)という海岸で開催されている、第6回モンサンポサンドアートフェスティバルに参加してきました。
以前からお世話になっている、ソウルの誠信女子大学の教授で彫刻家のキム・ソンボク先生からの招待でした。会場であるの夢山浦は、キム先生の故郷であり、キム先生はこのサンドフェスティバルのディレクターをされています。日本から、現在東京藝術大学に留学されている、台湾人のテイさん、イラン人のサブーリさん、アメリカ人の彫刻家ビルさんとその奥様と共に招待作家として参加しました。みなさんとは飛行機や宿泊も一緒だったので、なんだか久しぶりの修学旅行のようで楽しかったです。
ソウルへ着いた翌日、誠信女子大学へ向かい、キム先生や学長先生、彫刻科の教授をされている先生にごあいさつをして、学食で昼食をごちそうになり、車何台かにわかれて夢山浦に向けて出発しました。夢山浦はソウルから車で3、4時間かかるので、着いた頃には日がかげりはじめていました。

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夕方から誠信女子大学の彫刻科のみなさんやキム先生の知り合いの先生方が続々と集まり会場近くの食堂で食事会が始まりました。海が近いからか新鮮な魚介類中心で、意外と思われるかも知れませんが、お刺身もたくさんで、とてもおいしかったです。
2 次会では宿泊するホテルの敷地内でアナゴのバーベキューをいただきました。前回のレポートでも書きましたが、韓国のみなさんはとてもお酒が強いです。次の日が彫刻を作る本番だというのに、教授のみなさんが率先して飲んでおられました(笑)。日本からの作家陣は2次会で失礼したのですが、みなさんは明け方近くまで飲んでいたようです。なんともパワフルですね!

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翌日、いよいよ本番の日、どこからか民族衣装を着た太鼓奏者達が踊りながら演奏を始め、祭りのムードを盛り上げています。
今年のテーマは「癒しの海」。実はモンサンポでは昨年、タンカー事故により原油が海に流出してしまい、今年のサンドアートフェスティバルも開催できるかわからない状態だったそうです。市民ボランティアによる地道の努力のおかげで、再びきれいな海に戻ったそうです。韓国のみなさんの団結力、行動力、見習いたいものです。

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さて、中々難しいテーマで、何を作ろう?と悩んだのですが、招待作家の中で唯一平面作家の私、ここは高望みせず、まず完成させることを目指して波に乗るイルカを作ることにしました。キム先生の助手さんが一人、アシスタントとして手伝ってくれたおかげで、なんとか完成させることが出来ました。キム先生の大学は女子大ですが、大学院からは男子も入学できるそうです。このフェスティバルでは、招待作家の他は一般参加者で人数も自由なので、大勢チームは迫力のある作品も多かったです。


キム先生は審査員なので、ご自身は作品を作っていませんでしたが、久しぶりに会う地元の友人たちととても楽しそうに過ごされていました。また、作家として生まれ育った場所で貢献されていて、あらためて尊敬できる先生だなぁ、と感じました。私もいつかそんな活動ができた...と思った2008年の夏でした。

yasuoka_msaf5.jpg 安岡亜蘭

アーティスト


和の要素とメカニカルな要素を融合させた、現代的な平面作品を制作する。
多くのコレクターからの熱い支持を誇る人気作家、最近では海外展示のオファーも多い。
C-DEPOTでは第一回から出品している。


2009年04月03日

"UNCHARTED" トルコ/イスタンブル 未踏領域へ

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2009年3月から8月までトルコの最大都市イスタンブルで開かれている、大規模なインタラクティブ・メディアアート展"UNCHARTED -User Frames in Media-"に参加するため3月中旬より2週間滞在してきた。有史以来、常に歴史の表舞台にあったこの地は「アジアとヨーロッパがぶつかる場所」と形容されるように街の中心を流れるボスフォラス海峡が西をヨーロッパ、東をアジアに隔てている。
そして、今回の展覧会もそれを表すかの様に多くの国のアーティストやクリエイター40組ほどが"santralistanbul(サントラルイスタンブル)"に招聘された。

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"サントラルイスタンブル"は国内外の芸術文化の交流を目的に2007年9月にオープンしたまだ新しいモダンなアートセンターである。古い発電所をリフォームして作られた敷地には美術館、博物館、カフェやレストランなどがあり、Bilgi大学デザイン、映像学科のキャンパスが併設している。そしてここで研究、制作、そして展覧会やコンサートなどが行われている。
今回の展覧会では、トルコでもまだなじみの少ないインタラクティブなメディアアートを広く紹介するのが目的であり、またZKM*1などヨーロッパの主要なメディアアート施設、大学との連携を図っている。展示作品は5F建ての美術館の4フロアを使って、メディアアートの中でよく知られた代表的な作品と、逆にまだあまり良く知られていない若手の作家の作品がフロアごとに分けられ置かれており、来館者はぐるっと回ることで様々な時期とタイプの異なる作品を鑑賞することができる。

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筆者は昨年C-DEPOT2008でも出展した"/balance"という映像を重さというかたちで経験することができるインタラクティブなインスタレーションを展示している。1週間ほどの展覧会が多い中で、今回は半年という長丁場の展示になるので作品の性質上耐久性というものをかなり考えないといけなかった。出展が決まった2月から急ピッチで作品を動かしているコンピュータのソフトウェアの部分を修正し、作品本体で動く機構部を新たに設計し直した。現在のところ正常に動いているが、これから夏まで壊れないかという心配を持ち続けるのかと思うと気分が滅入るが、それ以上に多くの人に観てもらえるという期待の方が大きい。特に筆者は何の縁だかイスタンブルは4度目の渡航であり、これまで知り合った友人たちに自分の作品を観てもらえる機会が偶然にも得られたことはなによりの喜びであった。
また同時に今回多くのアーティストやスタッフとも知り合いになることができた。驚いたのは出展者の一人に、IAMAS*2で一緒だったスイス人の友人の大学時代の同期がたまたまいたことだ。食事のときに席が一緒になって世間話をしていたときにそれが判明して、この分野は本当に狭いんだなと改めて知らしめられた。世界では6人ほどひとを介せば誰とでも、アフリカの奥地の民族でさえ辿り着けるというけれども、メディアアートの世界ではきっと2、3次の隔たりしかないのかもしれない。

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さて、話を展覧会に戻すと前述したように、トルコにおいてメディアアートという分野、特にインタラクティブ性をもった作品は一般的にはあまり知られていないのが現状だ。イスタンブルのアートフェティスバルとしてよく知られているイスタンブル・ビエンナーレも現代美術が中心である。こうした中でヨーロッパ、特にドイツのZKMから協力を得ることで様々な作品を展示し、市民に広く知ってもらおうという動きはこれからの中近東のインタラクティブなメディアアート浸透への足がかりにはなるのではないかと注目である。個人的に言うとトルコ近代サッカーがドイツによって形成されたことと重なって興味深い。また16世紀に当時のオスマン・トルコ帝国で盛んであった素晴らしい宗教細密絵画が、西洋からきた遠近法に代表される技法に出会った瞬間と似た状況がいま訪れていると感じてもいいかもしれない。今まであまり知られていない分野の美術が地理的、文化的にも東西が混合するこの場所でこれからどのような舞台になるか非常に楽しみであると共に、今回作品を展示することで関われたことを非常に嬉しく思う。

*1 ZKM:ドイツ・カールスルーエにあるメディアアート中心とした美術館、研究所。

*2 IAMAS:岐阜県立の大学院大学と専修学校の総称。筆者が現在在学中である。

uncha_5.jpg小島一郎

web、インタラクションデザイナー


20代前半から積極的に海外のアートプロジェクトに参加し、その後企業でのwebデザイナーを経て、現在は情報科学芸術大学院大学に在籍している。C-DEPOTには設立時から参加しており、おもに広報物やwebサイトのデザインをしている

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